トーマス・マン
「ブッデンブローク家の人びと」
岩波文庫 望月市恵訳
文庫本三冊 1000ページ超
一気読みでした。
同じ作者の「魔の山」は難解、冗長な部分が多く、読み飛ばしたくなりましたが、この作品はスラスラ読めました。
登場人物が多いので最初は少し戸惑うかも知れませんが、それぞれ個性的なので、すぐに問題ではなくなります。
19世紀後半、ドイツのあるブルジョア一族の興亡記
4世代に渡る波瀾万丈大河小説です。
この作品に対する個人的なイメージは
戦前のインテリ旧制高校生の愛読書
学徒出陣の十四期予備学生の遺稿集「ああ 同期の桜」(毎日新聞社)は座右の書の一冊なのですが・・・
中でも林 尹夫(ただお)と言う方の文章に特に惹かれました。
旧制三高から京都帝大文学部西洋史学科に進み、英、独、仏の原書を読みこなす秀才です。
自らを「本のシミかも知れないが」(51ページ)と仰ってますが、同じ本好きとして親近感を抱きました。(頭脳レベルは天と地の差ですが)
この方のお兄様や友人達が
林さんの旧制高校から海軍時代までの日記をまとめた
「わがいのち月明に燃ゆ」(筑摩書房)
そんなタイトルの遺稿集を出版している事を知り、当時はネット通販など無縁の生活をしていたので、古本屋さんを巡って発見購入しました。
その遺稿集の巻末に林さんが18歳の時に書いた「ブッデンブローク家の人びと」の評論が載っていたのです。
感想ではなく評論と呼ぶに値する内容でした。
林さんの師である深瀬基寛さん曰く
「理解の明晰と表現の的確さが実に快い。敬意を表す」「わがいのち月明に燃ゆ」(222ページ)
後に他の旧制高校生出身者(有名人だと北杜夫さんとか小松左京さん)の文章読んで思ったのですがトーマス・マンは人気あったみたいですね。
ドイツやフランスの小説を読む(しかも原書だったりする)のがステイタスだったのでしょうが、「ブッデンブローク家の人びと」に関しては
物語として滅茶苦茶面白かったから読まれたのだと思います。
林 尹夫さんは・・・
学徒出陣で海軍14期飛行予備学生に採用され偵察員(主に航法、つまりナビゲーション担当者ですね)としての訓練を受け
昭和20年7月28日
一式陸上攻撃機という双発の爆撃機に搭乗して索敵出撃。
室戸岬東南方沖にてアメリカ夜間戦闘機の攻撃を受け、撃墜され戦死。
享年23歳。
「ブッデンブローク家の人びと」読み終えて、ふと思ったのですが・・・
70年以上前の若者と同じ物語を共有しているんですね。
ある種の感動を覚えます。
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